FC2ブログ

アトリエ通信〜アラスカ野生動物画家きむらけい〜

アラスカ野生動物画家きむらけいの日々徒然

エゾヒグマ遭遇事件 前編「グリズリーレクチャー」

山間部では紅葉の気配が漂ってきました。
毎年この時期になるとクマによる被害が増えます。

私はアラスカ取材でグリズリー(アラスカヒグマ)の生息地に入るので、
現地でガイドやレンジャーのレクチャーを受けています。
その対処法を実行し、取材活動を安全に行って来ました。
日本のヒグマとツキノワグマにも通用するので、
国内の山間部へ入る場合にも活用、これまで無事故でした。

ところが昨年の6月、初めて釣った北海道の道南地方の川で
エゾヒグマに追跡され、危うく命を落としそうになりました。
約30分に渡り私とパートナーを尾行、少しずつ接近してきたのです。
アラスカでの対処法が通用しないケースが北海道のヒグマにあるようです。

北海道在住の友人に話した所、道南の辺りは道内のヒグマ3大生息地で
接近して来たのは若熊であろうとの事でした。
好奇心が旺盛で興味本位であえて人間に接近するらしいです。
(※好奇心が旺盛なのはアラスカのヒグマもブラックベアも同様ですが
好んで人間に接近はしない)
しかし接近して来たヒグマはかなり大きな体躯で若熊ではありませんでした。
釣り人の捨てた生ゴミによって
人間の食糧に興味を持ってしまった「人慣れ」と呼ばれる個体かもしれません。

〈アラスカで学んだヒグマ生息地でのルール〉

1.ゴミを捨てない
 (ヒグマに関係なく人として常識)

2.身体に匂いを付けない
 (化粧・香水・整髪料・歯磨き粉など厳禁。
  ガムやアメも歩行中に食べない)

3.食糧は匂いが漏れないようパウチに収納、
  飲料水はペットボトルで
 (アルミ缶は飲食後内部の匂いが漏れるのでダメ)

4.歩行中は大きな声を出しながら、
  もしくはラジオや熊鈴などを鳴らし、
  音でヒグマに人間の存在を知らせる事
 (口笛は逆効果)

5.ヒグマを発見した場合、
  相手がこちらに気がついていなければ
  速やかに引き返せ

6.ヒグマを発見した場合
  相手がこちらを見ている場合は停止
 (ヒグマが接近して来なければ
  目線を合わせてゆっくり後ずさり)

7.ヒグマを発見し相手がこちらに接近して来たら
  走って逃げるな、悲鳴もあげるな
 (走って逃げる相手を追跡する本能がある)

8.ヒグマに追いつかれたら
  うつ伏せに寝転んで
  両手を後頭部と首のあたりに組む事

9.攻撃は約数分間行われ、頭部に集中するが
  攻撃中に悲鳴を上げたり反撃はするな
 (悲鳴や反撃は相手の攻撃性を煽る)


9.の黙って攻撃を耐えるについては、確かに北米ではその通りに行動し、
重症を負って生還した例がありますが、あくまでアメリカ人(西洋人)の方の場合。
体格差で劣る我々日本人は、この数分間の攻撃で絶命する可能性が高いと思います。
初期の段階での注意力をより高めることが重要なのです。

北海道のヒグマの対処法として
「攻撃を受けた場合には鉈やナイフなどで反撃すべし」と書かれた著書があります。
火事場の馬鹿力なんて言葉もありますが、はたして私が実際にできるでしょうか。
北海道のエゾヒグマは捕まえた獲物を「撲殺」する傾向があります。
体重が100〜200kg、最大300kg位。
たくましい腕には一撃で牛の頭部を吹っ飛ばす威力があるそうです。

アラスカでは鈴を鳴らすなど人間の存在をヒグマに伝えれば
彼らは距離を取ってこちらに接近してきません。
これがヒグマとの友好的な共存方法です。
しかし人間がヒグマの生息地に、食べ残しなどの生ゴミや
パッケージを捨てて帰ると、この共存関係は崩れます。
人間の食べ物は味や香りが強く、一度でもヒグマが味わうと
彼らはその味覚が忘れられず、危険を忘れ
人間に接近し食べ物を手に入れようと考えます。
これが「人慣れ」です。

アラスカ(キーナイ半島)ではこれらゴミの問題が守られているのに比べ
残念ながら今回襲われかけた北海道の川沿いには
釣り人に捨てられたゴミが目立ちました。

北海道のヒグマの事件で有名なのが
作家故吉村昭氏の小説「羆嵐」で知られる「苫前三毛別事件」と、
昭和に日高山地で発生したF大ワンダーフォーゲル部の事件があります。
どちらの事件も被害者の方やご遺族の方のご心中を思うと、
お気の毒で心が痛みます。
今と違ってクマの習性について情報がほとんど得られない状況で、
周囲に対処法を教えてくれる人もいなかったはずです。
特に北海道から離れた地にあるF大ワンダーフォーゲル部の方は、
北海道のヒグマについて正確な情報を得る事は困難であったと思います。

「苫前三毛別事件」は大正時代に起こった一頭のエゾヒグマによる襲撃事件。
開拓農家の集落が2日間に渡って襲撃され、女性と子供合わせて7名と胎児1名が死亡。
初冬の冬眠前に農家の軒先に吊るされたトウモロコシに味をしめ、
農家に頻繁に現れるようになったのがきっかけで起こった
世界最大のヒグマ襲撃事件です。

私はクマの対処法について講演の依頼を受ける事があり、
この2件の事故の詳細を収集し、分析しました。
ヒグマの習性から浮かび上がった共通点は
「ヒグマに奪われた所有物をクマの隙を見て取り返した事」、
「走って逃げた人が優先的に襲撃された事」の2点。

ヒグマは仕留めた獲物を土中に埋めて保存し、数回に分けて補食します。
上記の2件は食糧の入ったザックや山中に連れ去られた遺体を取り返した結果、
獲物を奪われたと思ったヒグマに追跡され、事態が深刻化した代表的なケースです。

「苫前三毛別事件」で女性や子供が集団で避難していた
農家が襲われたケースでは、クマが他の人を襲っている隙に
逃走した人がさらに襲われ、
恐怖で失神した人や物陰に隠れてじっとしていた人が
無傷で生還した事実も見逃せません。
ターゲット攻撃中であっても、走って逃げる人がいれば
矛先を変え襲撃するのは、クマの本能だと思います。

動物看護師の経験を持つ私のパートナーは、
こうして2日間に渡って幾度も襲撃をくりかえした執拗さ
その以前にも何度も農家にあらわれていることを
病気などの影響で恐怖心をなくしている状態、
後天的もしくは先天的にヒグマの脳に障害があったのではと
考えているそうです。(残念ながら解剖はされなかったので不明)

これらの事件を知っていた事もあり、
実際に自分が追跡され、ヒグマの姿を見た時に恐怖で身体が硬直。
全く動けなくなる人生初の体験をしました。
危うく命を落す所だったのだとあらためて恐怖を感じます。

b scKINGDOM  王国2010
きむらけい KINGDOM-王国- 2010年

後編「函館ヒグマ事件」に続く。
スポンサーサイト




alaska | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<エゾヒグマ遭遇事件 後編「函館ヒグマ事件」 | ホーム | 友人夫妻&3ワンコとの合同キャンプ〜涙の後編〜>>

コメント

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

| ホーム |